ユニークな郵便局大集合

日本全国の変わった郵便局、面白い取り組みを行っている郵便局をご紹介します。

2019年10月9日

10年後へのメッセージ
磐田富士見郵便局(静岡県)

協業が大きなうねりを生む

磐田市といえば、言わずと知れたサッカーとラグビーの町。トップアスリートたちが力と力をぶつけ合うスタジアムのすぐそばに、磐田富士見郵便局はあります。開局は1997年(平成9年)。新興住宅地として開発が進む中、急速に地域住民の数が増えたことから設置されました。

まちの誕生と同時に生まれた同局は、地域コミュニティを形づくるうえで郵便局のネットワークを活用し続けてきました。行政や地域団体と協業し、地域の発展に役立つ活動を行っていけば、地域全体に波及する大きなうねりになると考えたからです。そのことを意識し、これまで様々なことに取り組んできました。

例えばJリーグクラブチームのジュビロ磐田の応援企画として、年賀はがきに選手の似顔絵やメッセージを書いてチームに送ると、抽選で選手直筆の年賀状やサイン入りのサッカーボールが当たるキャンペーンを行いました。また、地元出身の卓球選手である水谷隼選手がリオ五輪でメダルを獲得した年には、選手をモチーフにしたフレーム切手の発売を実現。さらにカタログ販売では、地元名産のクラウンメロンゼリーや、磐田市の友好都市である長野県駒ケ根市とコラボレーションしたラーメンセットを取り上げ、全国に向け地元磐田市のPRに努めてきました。

合併10周年を祝う1年がかりのキャンペーン

現在の磐田市は、2005年(平成17年)に5つの市町村が合併し誕生しました。「平成の大合併」が話題となった当時は、日本中がお祭り騒ぎに。そして磐田市もその例に漏れず、市民や地域の企業と協業しながらさまざまな催しを開催してきました。

磐田市内の郵便局も記念マップをつくったり、局ごとに風景印による記念押印をしたりと、合併を盛り上げてきました。しかし事前に行政に働きかけることができなかったため、地域全体のイベントとはなりませんでした。

そこで7年後の2012年(平成24年)、合併10周年に向けて市が準備をスタートした段階で、ある企画を提案しました。それは、「10年後へのメッセージ」というもので、未来の自分や家族、また友達に向けて書いたはがきが、10年後に届くという仕組みです。

市に話を持ち掛けたところ、「それは面白い」と担当者も乗り気に。「10年後へのメッセージ」は、磐田市の記念事業として行われることになりました。またデジタルツールに慣れ親しんだ子どもたちにとって、郵便は新鮮なアイテムだったのです。教育委員会の協力も得て、市内の小中学校での実施が決定しました。このほか成人式で特設ブースを設けるなど各地で呼びかけを行う、1年がかりのキャンペーンとなりました。

市民に向けたPRが運営者の自覚を促す

企画を進めるにあたり気を配ったのが、ワクワク感を演出し、キャンペーンを成功に導く機運づくりでした。企画の面白さや本気度が伝わることで市民の方々が関心を寄せるだけでなく、各郵便局のスタッフ一人ひとりにも運営者としての自覚が芽生えると考えたからです。

PR面では磐田市のイメージキャラクターである「しっぺい」を前面に押し出し、郵便局の1日局長に任命。「しっぺい」にも「10年後へのメッセージ」をポストに投函してもらいました。また告知用のチラシにもひと工夫を加えしました。表面には手紙を書こうとやる気満々のしっぺいを描き、裏面はメッセージを書いたはがきを送るための絵封筒を印刷しました。枠線に沿って切り取り、のり付けすればかわいい封筒のできあがり。しっぺいの塗り絵は子どもたちに大好評で、カラフルな絵封筒が次々に郵便局に届きました。そして地元の新聞社やタウン誌に記事として取り上げてもらうことで、一大市民イベントとしての認知を図っていきました。

そして4600人以上の子どもから大人まで参加する大きなイベントになりました。小学生が成長した10年後の自分に宛てたもの、成人の門出を祝う日に新たな決意を記したもの、子育て中のママやお年寄りが、自分の子どもや孫たちに宛てたものと、そのすべてが明日に思いを馳せた大切な言葉ばかりです。配達されるのは2025年と、まだ6年近く時間があります。今はその日が来るまで、市役所で大切に保管されています。

磐田市は日本近代郵便の父である前島密のゆかりの地でもあり、磐田駅前には銅像が建てられています。密は1869年(明治2年)に遠州中泉奉行として、磐田のまちづくりに勤しみました。

そして密の地域活性への思いは、今も磐田の郵便局に確実に受け継がれています。


(取材・執筆/たなべやすこ)