ユニークな郵便局大集合

日本全国の変わった郵便局、面白い取り組みを行っている郵便局をご紹介します。

2018年11月21日

山江郵便局(熊本県)

村内で唯一の郵便局

熊本県の内陸部、県南部に位置する人吉市から北に向かいおよそ4km内側のところに、山々に囲まれた村があります。球磨郡の山江村です。総面積の約9割を山林が占め、村内を流れる川にはヤマメやアユなどが生息する自然豊かなところです。住民の多くは盆地で農業を営み、近年は名産品のである栗のブランド化に力を入れています。

その山江村で唯一の郵便局が、山江郵便局です。村役場の目の前にあり、村に住むおよそ3500人に欠かせない生活インフラとなっている山江郵便局は、都市部とはまた違った存在価値を放ちます。

この郵便局を現在切り盛りするのは、嶽本雄一局長。隣村の出身で、郵便局への就職を機に一度は都市部に出ますが、生まれ故郷のことを考え、今のポジションに就いたといいます。山江村にやって来て12年、今では村中のすべての家を回ったことで大体の家庭は把握できているそうです。 仕事の後は近くの温泉で村の人たちとその日の疲れを癒すほど。まさに裸のつき合いで、地域に馴染んでいます。

相手を笑顔にしてこそ、商いは成り立つ

山江郵便局の中に入ると目を引くのが、幅4メートル、高さ1メートルの大きな書です。嶽本局長自らが書いた、「あきない(商い)」の文字です。これには局長の想いがつまっています。郵便局を運営するうえで、大切にしている信条だといいます。

きっかけは高校生の頃。冬休みに、正月に食べる酢だこや鯨などを売るアルバイトをした時のことです。店のオーナーは最初に仕事の流れを教えると、嶽本さんひとりにその店を託し別の場所に行ってしまいました。店の運営など初めてのことで最初は戸惑いましたが、続けていくうちにあることに気づきます。それは、お客さまの満足や売り上げは、売る側のコミュニケーション次第だということ。儲けることに一心不乱になるのではなく、相手を笑顔にすることで商いは成り立つと実感したのです。

見る人を惹きつける嶽本局長の書は、村や局長会の間でも話題に。今では小さな色紙に思いをしたため、かんぽに加入したお客さまや初めて会う人へ名刺代わりにプレゼントするほどになりました。筆づかいが力強く縁起がいいと、喜ばれています。

「郵便局をどう生かすか」で実現した特産品販売

嶽本局長は、地域とうまく向き合うコツに、「一人の地域住民として、郵便局の何を活用できるかを考えること」を挙げています。「郵便局として何ができるか」ではない、真逆の考えです。

近年は特に、地元の物産の販売促進に注力。郵便局の強みである全国24,000局の店舗と物流ネットワークを活かそうと、精力的に活動し続けています。

取り組みの成果のひとつが、熊本県が立ち上げたベンチャー企業と県内南部の郵便局がタッグを組み完成させた、「九州うまかもんカタログ “くまモンバージョン”」です。各地の知られざる名品を集めたもので、関西地方の都市部の郵便局と九州地方でカタログ配布を実施。エリア限定版ながら、地域の垣根を越えた配布に成功しました。また今年6月に設立された山江村特用林産物振興協議会については、立ち上げから関わっています。協議会は栗やたけのこ、シイタケ、きくらげやヒバの木グッズなど、村の特産品を外に広めていくことを設立目的にしています。10月には福岡の郵便局での販売会も実現させました。

こうした取り組みを支えているのは、局長同士のつながりです。所属エリアだけでなく、全国各地の局長たちとも積極的に助け合う関係になること。先ほど紹介したカタログも、企画の途中で頓挫しそうになるピンチに見舞われました。しかし窮地を救ったのは、やはり外とのつながりだったと嶽本局長は言います。

「地域密着」といっても、地元だけを見ていては実現しなかったと嶽本局長。郵便局が必要とされる存在になるには、広い視野を忘れてはならないのです。


(取材・執筆/たなべやすこ)