ユニークな郵便局大集合

日本全国の変わった郵便局、面白い取り組みを行っている郵便局をご紹介します。

2021年5月13日

青葉台駅前郵便局(神奈川県)

郵便局から広がる交流の輪

青葉台駅前郵便局

郵便局の空き空間を有効活用

神奈川県の横浜市青葉区は、区内を走る鉄道会社が中心となって戦後に都市開発が進められたエリアです。豊かな自然と利便性の高さで、今もファミリー層を中心に人気の住宅街として知られています。緑に恵まれながらも洗練されたまち並みは、同じ横浜でも港町とはまた違った雰囲気です。

青葉区には市と鉄道会社が共同で進める「次世代郊外まちづくり」のモデル地区もあり、市民の地域参加が以前から盛んに行われています。郵便局も地区の局長たちと協力し合い、小学校で金融の出張授業を実施するなど、地域貢献に取り組んできました。
そのような中、青葉台地区で郵便局を舞台に新しい取り組みが始まろうとしています。その名は「青葉台ハニービープロジェクト(以下ハニービープロジェクト)」です。青葉台駅前郵便局の局長が発起人となり、青葉台郵便局の屋上で地域の人たちと一緒に養蜂にチャレンジすることになったのです。

青葉台駅前郵便局から
徒歩5分の位置にある青葉台郵便局

青葉台駅前郵便局と青葉台郵便局は徒歩5分ほどの距離にあり、以前から行き来する関係にありました。というのも、青葉台郵便局が20年ほど前から郵便物の配達・取り集め作業を取りやめたことにより、3階建ての建物の2階と3階が空きスペースになっていました。そのため会議などの際に、青葉台郵便局をよく利用していたのです。

そして青葉台郵便局にはもう一つ、空いたままの場所がありました。それは屋上です。目の前には公園やバスターミナルが広がり、視界を遮るものがありません。開放感たっぷりの広いスペースを使わないのはもったいないと、青葉台駅前郵便局の局長は感じていました。

全員初心者のプロジェクトが始動

屋上で何かできないかと考えていた青葉台駅前郵便局の局長はあるとき、たまたま支社のスタッフから養蜂の話を聞き「これだ!」とひらめいたといいます。なぜなら青葉区は花と緑の活動が活発な地域でもあり、以前、区内のNPO法人から協業を提案されたことがあったからです。養蜂はミツバチたちが、町中に咲く花の蜜を集めます。町中にある郵便局と養蜂が結びつくことで、町の緑化と地域活性化につながる仕掛けがつくれるかもしれないと、さっそくNPO法人に話を持ちかけプロジェクトの発足へとつながりました。

ハニービープロジェクトには、局長たち、NPO法人、区内の工務店でつくる社団法人、プロの造園家、地元の自治会、日本郵便(株)南関東支社社員らがコアメンバーとして集まっています。全員が養蜂は初めての経験だったため青葉区役所に相談し、養蜂家を紹介してもらいました。すると驚いたことに紹介された養蜂家は、青葉台郵便局から歩いて5分ほどのところに住む地元の方だったのです。

強力な助っ人を得たハニービープロジェクトは、今年(2021年)3月に本格的に始動しました。最初の活動は、屋上に置くミツバチや巣箱を雨風から守るための小屋づくりです。工務店のみなさんの指導を受けながら、局長たちが協力し合い作業を進め、同時に屋上の周りにはプランターを並べ、造園家がセレクトしたハチミツと相性のいい花の苗を植えていきました。そして3月末、ついにセイヨウミツバチを屋上に迎えたのです。

養蜂が人と自然と地域をつなげる

始まったばかりのハニービープロジェクトは、今のところ局長たちが主体となって動いていますが、郵便局の社員たちも積極的に活動を応援しています。「専任になりたいくらい」と話す社員もいるほどです。しかしゆくゆくは、市民主体の活動にしていく計画です。近隣に住む人たちが屋上の花の世話をしたり、自宅や周辺で花植えをしたり、あるいは今夏に青葉台郵便局の2階・3階に開設が予定されているシェアオフィスやコワーキングスペースの利用者同士の交流に役立つのでは、と考えています。
また地元の製菓工房やパン店と協力し、採取したハチミツを使った商品を開発する予定です。区内では地元で小麦を育て、飲食店などのメニューに用いることで地産地消をめざす「横浜あおば小麦プロジェクト」も市民の手で進められています。こうした団体とのコラボレーションにより、活動を盛り上げたいと企画しているところだといいます。

さらにめざすのは、子どもたちの参加です。採蜜体験や花の栽培など、ハニービープロジェクトを通じた花と緑との新たな出会いが、自然への興味や町への関心につながっていくと考えているからです。
順調にいけば、この夏にも採蜜できる予定ですが、その後も長い時間をかけてプロジェクトを定着させていきたいと、青葉台駅前郵便局の局長は意気込みを語ってくれました。

村野局長(前列左から3番目)と青葉台ハニービープロジェクトの仲間たち


(取材・執筆/たなべやすこ)