全特 2017年4月春号
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経営のヒント経営コンサルタント 小宮 一慶 (こみや かずよし)4爆買いは終了したが、闇民泊は急増している ここ一年間ほど、百貨店の売上げが前年比でマイナスを続けています。また、新聞を読んでいると、東京、大阪のビジネスホテルの稼働率が少し下がっているとの小さな記事がありました。年に一〇〇泊くらいは出張している私としても、肌感覚で大阪などのホテル代が、昨年、一昨年に比べてかなり下がっていると感じます。大阪でよく泊まるホテルで、昨年には一泊六万円と言われたことがありました(もちろん泊まりませんでした)が、最近では以前のように1万円台で泊まれることがほとんどです。 しかし、別の統計を見ると不思議なことがあるのです。訪日外国人観光客の数を見てみると、昨年の上半期でも前年よりも二〇%以上増加しているのです。とうとう目標としていた二〇〇〇万人を突破しました。その中心は相変わらず中国人です。 訪日客数が増加しているのに、百貨店の売上げが落ちているのは、中国当局が、高級品にかかる関税を三〇%から六〇%に上げたことや銀聯カードの外貨での引出しの上限を設定したことが大きいと言われています。さらにその背景には、中国経済の減速に関連して、かつて四兆ドルあった中国政府が保有する外貨準備が二割以上一気に減少したことがあります。また、かつては1元=20円程度だったのが15円程度まで円高が進んだことも大きいでしょう。 爆買いは終わりましたが、化粧品や小さな魔法瓶などの、比較的価格が安いものはいまだに大幅に売上げが伸びています。 しかし、そういう状況でも、訪日客が大幅に増えている中で、ホテルの稼働率や料金が下がっているのは不思議です。私は、闇民泊の影響が多いと思っています。民泊を紹介する一つのサイトだけでも三万室程度が出ていると言われています。中国人専用のサイトもたくさんあるとのことです。 大阪で聞いた話では、それほど採算を生まないビルやマンションなどを、中国人が一棟買いして、それを民泊用に改装し貸しているということです。一室を一万円程度で貸しているようですが、一室に五人くらいは泊まれるので、一人当たりだと一泊二〇〇〇円くらいです。私が出ている大阪のテレビ番組では、オーストラリア人の若い四人のグループが一人一泊二四〇〇円で四泊していると言っていました。 もちろん、闇民泊は違法ですが、そのおかげで私たちビジネスマンは宿泊代の高騰という面が多少抑えられていることも事実です。今後は、現状特区だけで認められている民泊が、全国的に法制化されていくことになるはずです。 中国はここ二十年ほどの急成長で、多くの人が豊かになりました。それにより訪日客も増えているのですが、ここにきて中国経済の大きな潮流の変化があることも私たちは決して見逃してはいけないことです。今後の中国経済や訪日客の動向から目が離せないところです。経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。 1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業後、東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、93年にはUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。94年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立。2014年、名古屋大学客員教授に就任。幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書100冊以上、累計発行部数は300万部を超える。近著は『ビジネスマンのための最新「数字力」養成講座』(ディスカヴァー)。17

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