全特 2016年10月秋号
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経営のヒント経営コンサルタント 小宮 一慶 (こみや かずよし)2リーダーのための2つの覚悟 郵便局長の皆さんは毎日社員の方々と一緒になって郵便局の業務を行っておられることと思います。リーダーとして部下を動かすことが必要ですが、そのためには「二つの覚悟」が必要だとよく講演などでお話しします。一つは先頭に立って行動する覚悟、もう一つは業務上部下が行ったことの責任を取る覚悟です。 まず、前者の先頭に立って行動する覚悟ですが、頭の良い人でも部下がついてこないという人は、先頭に立つ覚悟が足りないのかもしれません。ティーチャーとリーダーは違うのです。ティーチャーというのは、相手に向かって知っていることをいろいろと話す人です。一方、リーダーは部下と同じ方向を向いて先頭に立って行動する人です。部下がやることを全てやれと言っているのではありません。全てを自分でこなすならば部下は不要です。大切なことは先頭に立って行動するということです。 このことは戦前の海軍兵学校では「指揮官先頭」として厳しく教えられていたそうです。先日、横須賀を訪問した際に戦艦三笠を見学し、そのことを実感しました。戦艦三笠は、日露戦争時に活躍した連合艦隊の旗艦で、司令長官の東郷平八郎や参謀たちが乗り込み、日本海海戦の指揮を執った船です。司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』に詳しく紹介されていますが、対馬沖での日本海海戦が始まったときに、幹部たちは東郷長官を気遣い三十センチの鋼鉄製の防御壁のある司令塔に入るように進言しました。しかし、東郷は、『坂の上の雲』の主役の秋山真之など数人とともに防護壁も屋根もない艦橋に残り、逆に一緒に全員が爆死すると困るからと副官以下を司令塔に入れたと言います。まさに「指揮官先頭」を実践したわけです。 特に、開戦当初は、敵艦隊の前を横切る形で敵の行く手を遮る有名な「東郷ターン」を行ったわけですが、その際は、旗艦三笠が一番長く砲撃にさらされる位置にいたと言います。それでも、なお東郷は無防備の艦橋に立ち続け、砲撃の水しぶきが東郷達に容赦なくかかった姿は、指揮官が先頭に立つ覚悟が部下を奮い立たせたのです。 もう一つの「責任を取る覚悟」ですが、経営コンサルタントの大先輩の一倉定先生は、リーダーとして成功したければ「電信柱が高いのも郵便ポストが赤いのも全部自分のせいだと思え」とおっしゃっていました。そこまでの責任は取れないものの、やはり、自分の管理下で起こったことに関しては、責任を取る覚悟が大切です。私も十人の小さな会社をもう二十年以上経営していますが、クレームをいただくことも少なくありません。正直、その対応を行うことはあまり気分の良いものではありませんが、やはり、部下が行ったことは自分の責任と考えて対応するように心がけています。社内で起こったことは、責任者である私の責任なのです。そこから逃れようと思っても無理なことなら、自分の責任と覚悟を決めて対応したほうが結果はうまくいくし、部下も頼りにしてくれるはずです。 先頭に立つ覚悟と責任を取る覚悟、これらも普段からの心がけで鍛えられるのだと思います。経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。 1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業後、東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、93年にはUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。94年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立。2014年、名古屋大学客員教授に就任。幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書100冊以上、累計発行部数は300万部を超える。近著は『ビジネスマンのための最新「数字力」養成講座』(ディスカヴァー)。泫泫この事例は、戦争を礼賛するために用いたものではありません。15

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